ようおまいりでした。

旅の記録や日々感じたことを自由気ままに夫婦で綴っていきます

【書評】#16 三千円の使いかた (著:原田ひ香)

パッと本屋でタイトルが気になって手に取った小説。面白くてスラスラ読めました。
日々のお金や仕事に関するお話がテーマです。


■概要■
就職して一人暮らしを始めた美帆(貯金三十万)。
結婚して証券会社を辞めた姉・真帆(貯金六百万)。
習い事に熱心で向上心の高い母・智子(貯金百万弱)。
一千万円を貯めた祖母・琴子。

この御厨(みくりや)家の女性が日々の生活の中で、お金の悩み
を中心に自身の心境・行動の変化について記載したお話。

各メンバの生活についてそれぞれ並行して話が進み、世代別のリアルなお金との関わり方について
、いかにもありそうな実生活を交えながら書かれています。

読んでて「いいな〜」と感じた部分がありましたのでそこをご紹介したいとお思います。

■祖母の琴子
この小説では祖母の琴子(73歳)がキーパーソンの一人。
お金に関しては、亡き夫が残してくれた退職金1千万円を銀行を使って資産運用していました。
年利2%(3ヶ月限定)などの金利の高い銀行に全額預け、金利の高い期間が終わると解約して全額おろし、別の金利の高い銀行に全額預けるみたいなことを繰り返していました。
ところが運用して儲けた40万円で目標としていたマッサージチェアを手に入れたとたん打って変わって無気力に。


そんな祖母が、息子の妻にあたる智子に頼まれ、智子主催の小さな
お料理教室の手伝いに行きました。
「私が教えられることなんて」と及び腰だった琴子も、人と会うのが楽しく色々質問されるのも嬉しかったりして、料理教室は
盛会に終わりました。
そして帰りがけに智子から謝礼として5千円をもらったのです。

この5千円が琴子に大きな変化をもたらします。
ここの心境の変化が読んでて好きな一節でした。

嬉しかった。単純に、嬉しかった。まだ、自分もお金を稼ぐことができるのか。
あの日夜帰宅して、封筒からお札を出した時、なんとも言えない喜びが心に満ちあふれ、ここ何年も味わっていなかった満足感と感動で心がいっぱいになるのを感じた。
家計簿に、久しぶりに「年金」以外の収入を書き込むのが誇らしかった。

琴子にとって、なぜこんなにも嬉しかったのか、冷静に自分の心境を分析していきます。

あまりの喜びに、自分自身、戸惑った。最初は何か、病気で心臓が動悸を起こしているのかと心配になったほどだった。
結局、私はお金が欲しかったのか、と寝床の中で考えた。少し浅ましくて、悲しくなるが、いや、それだけではないと思い直す。自分は感謝されたいのかもしれない。
それはかなり正直な気持ちに近い気がした。けれど、今でも曾孫の世話をすれば真帆に感謝されるし、庭の水やりをすれば安生に感謝される。
自分は感謝され、そしてお金ももらいたいのではないか。つまり、働きたいんじゃないかと思いあたり、我ながらぎょっとする。

そう、琴子は「感謝されそして、お金ももらう」つまり働くことの喜びを再認識したのです。

働きたい?
七十三歳で、もういつ倒れるかわからなくて、孫にも認知症じゃない?なんてからかわれる自分が?
いや、それはさすがに無理だろう、と頭を振る。〜中略〜
けれど、その次の日、琴子はあっさり仕事を見つけてしまった。〜中略〜
口に出すのも恥ずかしいと思っていた、「働きたい」という気持ちは、そう高望みでもないのかもしれない。

琴子は心境の変化から、コンビニバイトや清掃員などの募集に応募しながら、ついに和菓子屋での受付のパートに採用され、そこで生き生きと働くことになります。

これを読んでると自分も学生時代に初めてアルバイトをし、慣れないながらも始めて仕事を覚えてお金をもらった嬉しさを思い出しました。
そして社会人になって日々忘れがちな、自分の仕事が誰かの役に立っていてその対価としてお金を頂けるありがたさ、みたいなものを再認識しました。そして少し勇気をもらえました。

■物語の締めは、家族の優しさ■
物語の終盤は、お金の話から家族の優しさみたいなテーマにうつっていきます。
祖母と智子、そして智子の夫が美帆にある提案をするのですが、この提案が「おお〜」と思わず声をあげるほどでした。
とってもいいラストだったのでぜひ手に取って読んでみてください。
【書評】#16 三千円の使いかた (著:原田ひ香)でした。